陶芸

文化

 

「トウゲイさん、陶芸の魅力って何だと思いますか?」

土の香りと、どこか懐かしい空気に包まれた静かな工房で、長年趣味で陶芸を楽しまれている陶芸家「今泉トウゲイ」さんにお話を伺います。

 

トウゲイさんは手元の粘土を優しく捏ねながら答えてくれました。

「そうですね、私にとっての陶芸の魅力は土との対話にあります。粘土を手に取ると、生き物のようにこちらの思いに応えてくれる。難しい言葉で可塑性(かそせい)というみたいです」

「可塑性というのは具体的にどういうものなんでしょうか?」

「簡単に言えば、形を自由に変えられる性質のことです。ほら、見てください」

トウゲイさんは粘土を丸め、引き伸ばし、また元に戻します。

「粘土は力を加えると形を変え、そのまま保ちます。水分が適度にあれば何度でも形を変えられる。この性質が想像力を現実の形に変えていくんです」

粘土がトウゲイさんの手の中でどんどん変化していきます。

 

日本の陶芸は長い歴史の中で独自の美意識を育んできました。
トウゲイさんはいくつかの作品を見せてくれながら説明してくれます。

「例えばこの備前焼。荒々しくも味わい深い肌合いが特徴です。こちらは有田焼で、繊細で華麗な染付が美しいでしょう。そしてこれは志野焼。大胆で力強い風合いが魅力です」

それぞれの作品が異なる個性を持っているのが印象的でした。

「これらの個性豊かな陶芸様式は、日本の多様な自然環境と文化が生み出した宝物なんです」とトウゲイさんは語ります。

 

工房の奥には大きな窯が鎮座していました。

「焼成過程は陶芸の醍醐味の一つですね」とトウゲイさん。
「1000度を超える高温の炎に包まれ、粘土で形作られた作品が魂を吹き込まれるかのように変容していく。この瞬間は本当に神秘的なんです」

「窯の種類によって作品の仕上がりも変わるんですか?」

「ええ、大きく変わります。例えばこの登り窯。長い坂道状の窯の中で、下から上へと順に火が移っていきます。窯の場所や火の当たり方によって、同じ作品でも全く異なる風合いに仕上がることがあるんです」

「それは予測できないんですか?」

「ある程度は予測できますが完全には制御できません。その予測不可能性が私たち陶芸家を魅了し続けてくれます。毎回の焼成が冒険のようなものですよ」

 

工房の棚には色とりどりの釉薬(ゆうやく)が並んでいました。

「トウゲイさん、釉薬についても教えていただけますか?」

「ああ、釉薬は陶芸作品に色彩と質感を与える、まさに魔法の粉です」
トウゲイさんはいくつかの小瓶を手に取りながら説明してくれました。

「釉薬って具体的にはどういうものなんですか?」

「基本的にはガラス質の粉末です。これを水で溶いて作品に塗り、高温で焼成すると溶けてガラス質の被膜になる。これが釉薬なんです」

「種類もたくさんあるんですね」

「そうなんです。例えば、これは青磁釉。透明感のある美しい青緑色を生み出します。こちらは天目釉で深みのある茶色が特徴です。これは灰釉。文字通り植物の灰を主原料としていて自然な風合いが出るんです」

トウゲイさんは作品をひとつ手に取りました。表面に美しい斑点模様が浮かび上がっています。

「これは油滴天目という技法で作られた作品です。鉄分を多く含む釉薬が高温で焼成される際に表面にこのような斑点模様を形成するんです。宇宙の星座のようで、見る人を魅了してやみません」

確かにその模様は美しく、目が離せないほどでした。

「釉薬の配合や塗り方、焼成方法によって同じ作品でも全く異なる表情を見せることができるんです。これも陶芸の面白さですね」

話は現代の陶芸へと移りました。

「陶芸は古い伝統技術というイメージがありますが、今でも進化し続けているんですか?」

「もちろんです」トウゲイさんは力強く答えます。
「現代の陶芸家たちは伝統的な技法を基礎としながら、新しい技術や素材を積極的に取り入れ可能性を広げています」

トウゲイさんはいくつかの現代陶芸作品の写真を見せてくれました。

「伝統的な釉薬技法を用いながら自然の美しさを抽象的に表現した作品を生み出し、陶芸の芸術性を高めている方もいらっしゃいますし、陶器と金属を組み合わせた作品を制作し、硬質な質感と柔らかな質感のコントラストという新しい美の形を探求している方もいます」

「最新技術を使った陶芸もあるんですか?」

「ええ、とても興味深い試みがたくさんあります。3Dプリンター技術を活用した複雑な形状の陶芸作品や、AIを使用して伝統的な柄と現代的なデザインを融合させた新しいパターンの開発など、テクノロジーと伝統技術の融合が新たな表現を生み出しています」

 

工房の一角には日常使いの器が並んでいました。

「陶芸の魅力の一つは、その実用性と芸術性の調和にあるんです。」とトウゲイさん。
「日々の生活で使う茶碗や皿が美しい芸術作品でもある。これは日本の茶道文化が育んできた『用の美』の思想といえます」

トウゲイさんは茶碗を手に取り、
「これは楽焼の茶碗です。素朴で力強い風合いと、手に馴染むフォルムが特徴です。これは単なる飲み物を入れる器ではなく、持つ人の心を豊かにする芸術品なんです」

確かに、その茶碗は見ているだけで心が落ち着くような美しさがありました。

「日々の暮らしの中で、こうした美しい陶芸作品に触れることは私たちの感性を磨き、生活に潤いを与えてくれるんです」

 

最後に、陶芸の未来について伺いました。

「陶芸は人類の歴史とともに歩み、常に進化を続けてきました。これからまたさらに陶芸の可能性は広がりつつあります」とトウゲイさんは語ります。

「例えば、環境への配慮も現代陶芸の重要なテーマの一つです。エコフレンドリーな製作プロセスの開発や、リサイクル可能な素材の利用などの取り組みが進んでいます」

「教育や療育の分野でも陶芸の持つ創造性や感性を育む効果が注目されているそうですね」

「そうなんです。粘土を触り、形を作り焼き上げるという一連のプロセスは、子どもたちの感性を育み、高齢者の認知機能の維持に役立つ可能性があるんです」

「グローバル化の影響は?」

「それも大きいですね。世界中の陶芸家たちが技術や思想を交換し合う機会が増えています。この文化交流は新しい表現や技法の誕生につながり、陶芸の世界をさらに豊かなものにしていくでしょう」

 

対話を終え、工房を後にする頃には陶芸の魅力にすっかり引き込まれていました。

陶芸の魅力は、手触りや質感、色彩や形状など、五感で感じ取れる美しさと、作品に込められた作者の思いや長い歴史の中で培われてきた技術と精神性にもあります。

どこかに出かけた先でのお気に入りの茶碗やお皿との偶然の出会いは、日々の生活に旅の記憶を刻む素敵な方法かもしれません。