カラッと揚がった天ぷらを一口。
サクサクとした食感と共に、海の幸や山の幸の旨みが口いっぱいに広がります。
天ぷらの魅力について、こだわりの天ぷら通「油屋テンプラ」さんと見ていきましょう。
薄く繊細な衣は包まれた新鮮な食材の味を封じ込め、同時に引き立てる魔法の鎧です。
揚げたてアツアツの天ぷらを、あっさりとした天つゆにくぐらせればまさに至福の一時。
食材によっては塩や柑橘類の絞り汁もよく合います。
この絶妙なバランスこそが天ぷらの真髄と言えるでしょう。
天ぷらのルーツは意外にも遠く離れたポルトガルにあります。
16世紀、南蛮貿易と共に日本に伝わった「南蛮料理」が、天ぷらの原型です。
当時のポルトガルでは、カトリックの斎日(テンポーラ)に魚や野菜を小麦粉の衣で揚げて食べていました。
この料理が長崎に伝わり、日本の食文化と融合します。
江戸時代に入ると、天ぷらは大きな変貌を遂げます。
油の生産量増加により、かつての高級品が庶民の味となったのです。
江戸の街角に立ち並ぶ天ぷら屋台で串に刺した天ぷらを買い、歩きながら食べる人々。
当時の天ぷらは現代のように厚い衣ではなく、薄衣で揚げた軽やかな味わいだったようです。
天つゆにくぐらせて食べるスタイルはこの頃に確立されました。
明治時代に入ると、天ぷらはさらなる進化を遂げます。
天ぷら専門店の登場により、天ぷらは単なる庶民の味から芸術の域に達する料理へと昇華しました。
揚げる素材、油の種類、衣の調合。すべてに職人の技とこだわりが詰まっています。
「金ぷら」「銀ぷら」と呼ばれる高級天ぷらの誕生はまさに集大成といえます。
そして「お座敷天ぷら」が登場します。
目の前で揚げたての天ぷらを提供するスタイルは、天ぷらを「料理」から「体験」へと昇華させました。
テンプラさんは言います。
「天ぷらを美味しく食べるコツは揚がった瞬間に食べること。時間が経つと香りが失われてしまうからね」
カウンター越しに職人の技を目の当たりにし、揚がったその瞬間に天ぷらを口にする。
とても贅沢な食事体験です。
大正時代、関東大震災をきっかけに江戸前の天ぷらが全国へと広がります。
東京の天ぷらと関西の天ぷらが出会い、新たな味わいを生み出しました。
関西では魚のすり身を素揚げにした「じゃこ天」や「薩摩揚げ」も「天ぷら」と呼ばれます。
この地域による違いも天ぷらの奥深さを物語っています。
戦後、高度経済成長期を経て、天ぷらは完全に日本の国民食となりました。
家庭でも気軽に楽しめる料理となった一方で、高級天ぷら店では職人の技がさらに磨かれ、その味わいは極みへと達します。
今や天ぷらは、寿司や懐石料理と並ぶ日本を代表する料理として世界中で認められています。
一つ一つの天ぷらが日本の四季を表現しており、春は筍や蕗の薹、夏は鱧や茄子、秋は松茸や銀杏、冬は牡蠣や蟹。
旬の食材を最高の状態で味わえるのが天ぷらの醍醐味です。
「天ぷらを食べる順番は淡白な味から濃い味が基本。俺はせっかちだから出てきた順、食べたい順で食べるんだけど」
テンプラさんが冗談ぽく笑いながら教えてくれました。
天ぷらを味わうことで日本の食文化の「粋」を感じることができます。
それは単なる食事ではなく、日本の歴史と文化、そして職人の魂に触れる、かけがえのない体験なのです。